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しあわせペリカ生活 (jf2配布タダ紙「お友達から…」改題)
あのカジノのトイレで口説かれて、どうしてクラッときたりしたのか…… 確かにいつものくせで借用書も持っていた。で、日本の主だった苗字三文判ボックスは、荷物になるから事務所に置いていったが、『伊藤』の三文判だけは、なんとなく持ってはいた。 そして一千万持っていた……が、貸し付けるための金ではなく、逃亡資金。最後のライフラインだったのに、結局あのバカに貸し付けてこの体たらく。 確かにカイジの仕掛けは完璧。最後、偶然が作用した『沼』の玉詰まりも、カイジの悪運が味方していたのだろうが……結局、陥落するために必要なパッキー購入資金の見積もりを誤っていた段階で、負けていたのだ。 あの坂崎が、どこからか非合法に金を調達してきたようだったが、それは時間切れで俺たちがとっつかまった後のこと…… 坂崎のその後は知らないが、俺とカイジは地の底の住人となった。
この一ヶ月というもの、生活はすこぶる快適すぎて泣けてくる。 とりあえず、運動不足とカロリーと糖の過剰摂取で成人病になることはない。肥満だのメタボリック症候群だのとはまさに無縁の生活。万々歳だ。 他人とのコミュニケーションに餓えている寂しがり屋にも、ある意味優しい生活だろう。なにせ借金という共通項を持った人間が、共に同じ釜の飯を食っているのだから、なにやら仲良しグループが出来やすいようである。当然、底辺なりにヒエラルキーもあるが、はっきり言って地上での競争に比べたら、先に受験戦争の控えていない義務教育の学校みたいなモノだ。 その中で、俺とカイジは孤独だった。 まぁ、俺は元悪徳金融業者だからわからんではない。が、カイジはといえば、仲間のために地上で無謀な賭けに挑んだ英雄……敗れたとしてもそれなりに人気者になりそうだが、その勝負で『一生ここの住人』ということが確定してしまったのが、非常に重いらしく、周囲がどう扱っていいのかわからず、なにやら『異端』と化していた。 『沼』攻略のために共犯者だった俺たちは、抜け出すための悪巧みでもされたらたまらないとでも思われたのか、班は別々で作業中、ほとんど接点はない。 とはいえ、大人数が活動してはいるが、限られた穴倉での生活であればすれ違うことくらいある…が、なにやらおもいっきり、カイジに避けられているフシがある。 こりゃ、給料日のビールの話も反故かもしれねぇなぁ… 契約書を交わした約束でなし、それも仕方がないが……冷血だの吸血鬼だの罵声を浴びせられたこともある金貸しだった俺でも、結局人の子だったということか。 つまはじきにされ、こっちは顔も覚えていないが、昔、俺のところからつまんだ結果、ここに落ちた野郎から、ちまちまとしたイヤガラセを日常的に受けていたりすると、普通に世間話ができる相手が欲しくなるというものだ。 まぁそれも、そのうち慣れるだろう。 それにしても… はぁ〜…と、でっかい溜め息が、つい俺の口から漏れた。 地上の物価に換算するとバカバカしくなるような額とはいえ、本来、もっと出るはずのペリカが、あの問題児のとばっちりで、五千ペリカしか受け取れない。日本円に換算して五百円…俺が小学校のガキの頃のこづかいだ。 ここでの缶ビールが五千ペリカ…円換算で地上の約2倍。てことは、タバコ一箱はひと月頑張っても調達できやしねぇ… このひと月、強制的に禁煙させられ、吸わなきゃ吸わないで確かに死にゃあしねぇが……ヤ二への渇望で、なにやら頭がくらくらした。 部屋の隅っこで頭を抱え、丸くなっていたところへ、頭頂部へ冷たいものを一瞬乗せられ、見上げればカイジが心配顔で覗き込んでいる。 「気分、悪いのか?」 「なんだよ、お前…」 「だって、約束だから。言ったろ?給料日にはビール奢るって。ビール一本分のペリカしかねぇから悪いけど、つまみは自分で調達してくれ」 すぐに立ち去ろうとするカイジの手首を、反射的に掴んでしまった自分自身に驚く。 一瞬、何を言えばいいのか迷い、とりあえずカイジを待たせ、初ペリカを掴んで円定価の2倍ワゴンへ向かった。 「ほら、適当に開けろ」 そのうち馴れちまうんだろうが、観光地並のぼったくり価格にぐらぐらしつつ、子供の遠足のこづかいのような金で、しょぼいつまみを見繕い、カイジの前へ放る。 「いいのか?」 「その代わり付き合え。一人の晩酌はつまらん」 カイジはなぜか頬を紅く染めて、柿ピーの小袋を破った。 俺はカイジから受け取った缶ビールを、プシュッと音を立てて開ける。 久しぶりの刺激物。ノドに染み渡る冷たさが心地よく、修行僧みたいな一ヶ月の禁欲生活のおかげで、一瞬でくらくらと酔いの桃源郷が降りてくるような錯覚に囚われる。 「ほら」 カイジの方へ一口飲んだ缶を差し出してやれば、カイジはキョトンとした。 「だから、一人はつまらんと言っただろうが。一口づつだからな」 「本当にいいのか?」 じっ…っと上目遣いでこっちを窺う様子を見ると、なにかの下心でもあるんじゃないかと疑っているようだ。 「これがなんかの誘い水でも、俺、本当にペリカないし…」 「素寒貧は俺も同じだ。いらないなら…」 引っ込めようとすると、缶の下のほうを握られる。未練はあったらしい。 それでも警戒感が拭えない顔を見ていると、なんだかこのまま巣穴に持って帰りそうな、野生動物と対峙している気がする。 一応俺の権利であるので、巣穴に持って帰られてもたまらず、つい一つ、大きな溜め息ついて、「本当に一口づつだからな」と念を押して、缶を離した。 カイジはまじまじと缶の飲み口を見つめる。 時間が経ってもなかなか飲みやしねぇ… 「早く飲め。ぬるくなっちまうぞ?」 と声をかければ、カイジはやっぱり缶を眺めながら、ぼそぼそと呟く。 「……昔さぁ…ちょっといいなって女の子から、こういう風にジュースとか回ってきたら、けっこうドキドキだったなぁ……って思ってさぁ…」 「バカなこと言ってねぇで飲め。俺の気が変わるぞ?」 そこでようやくカイジは缶を傾けるわけだが……なにやら俺の顔が熱い。酔いが回ったか? 「はい」 再び俺のほうに缶が戻ってきて、つい濡れた飲み口を眺めてしまう… カイジのさっきのアレは、昔そういうことがあったのを懐かしんでたのか、それともそういうことがあったらいいなぁ…と思ってたという仮定の話だったのか。ガキの頃確かに言ってたことあったよなぁ『間接キス』とかって… 「遠藤さん、顔赤いよ?」 「うるせぇよ」 ごくりとノドを鳴らして、こいつのせいで多少ぬるく気の抜けたビールを飲む。 絶対、禁欲生活のせいで酔いやすくなってるだけだ。じゃなきゃ、青臭いガキじゃあるまいに、どうしてこんなにドキドキしなきゃならんのだ。大体こいつがヘンなこと言うから……って、なんでこいつで…… 気を落ち着けるために少し多めに飲んでしまった。 「ほらよ」 あんまり残ってねぇが、ヘンなこと言ったバツだバツ。 カイジは今度はへへっと笑って缶を受け取り、持ったときの軽さで軽く失望しつつ、缶に口をつける。 それにしても……飲み終えた後、一滴でも残ってないかと、ベロベロ飲み口を舐めるのは感心しない。 「カイジ、次回は買う前に声をかけろ」 「なんで?」 「千ペリカ足したら、ロング缶が買えるだろうが」 「あ……」 俺より地下生活が長いくせに、目先のことに囚われて、今までそういうことに気付かなかったらしい。 まぁ、長い長い囚人生活。馬鹿と一緒のほうが退屈しねぇ……か。
たぶん沼失敗パターンの中で、一番平和な関係で続くと思われる話。
どっちかが弱って倒れたら看病したりとか、えろ抜き萌えパターンに発展しやすそうではあります。地底でのんびり愛をはぐくんでもいいじゃない!
そののんびり愛をはぐくむのが、自分で書く上では一番苦手だったりしますが。
タイトルの脇にも書いとりますが、ただ紙に書いた話と内容はまったく同じです。
実はずいぶんただ紙が残ってるので、通販である程度なくなったあとのがいいかしら?とも思ったんですが、思い起こすと、イベントの最初の段階で遠藤金融小銭受けを使い忘れたのと同様に、なんかただ紙を渡しそびれた方が数人いらっしゃったような記憶はあるわ、何ヶ月も読み物が上がってないのもいかんだろう(こっちのが大きい)というわけで、サイトに上げときます。
内容同じですが、ただ紙まだあるんで、どうしよう…
通販で申し込まれた方には、イベントではこんな風だったよ的に、本の隙間にこっそり潜ませておきますので、あとは裏面をメモ用紙にでも使ってくださいませ。
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