ちびちび 5



 初詣とやらの習慣はずいぶんと若いころに置き忘れてしまい…
 おせち料理がデパートで売られるようになってからは、ある意味縁起物ということでなんとなしに購入しているが、飽きれば適当な弁当を求め便利な世の中の代名詞コンビニへ、タバコの補給がてら買いに行き…
 そんな折に、父と母の両手にぶら下がるようにしながら、幸せそうに歩いてゆく小さい子供などに行き逢うと、ああ、あいつは今頃どうしているかなぁ…などと思う遠藤である。
 ひどく懐かしく思い起こしたところで、せいぜい10日ぐらい前のことでしかないのだが……子供子供したあのカイジとは、おそらくもう会うことはない。最後に会ったときは、姿は子供で、中身は実年齢になっていた。今はすっかり元に戻ったのだろうか?
 なにやら、あのちっこいカイジのことを思い出すと、自分の思考がガラにもない方向へ走るので、遠藤はぶんぶんぶんと頭を振ってそのことを追い出そうとするのだが…
 思っていることが現実になる超能力でも身に着けたかのように、小さなカイジが自分のマンションの部屋の前でうずくまっているのを見て、いささか驚愕した。
 「カイジっ…どうしたっ」
 「ろうしらもこうしらもねぇっ…あんらヘンタイのそうくちゅ、まっぴららっ!!」
 舌っ足らずではあるものの、この口の悪さは本来のカイジで間違いないらしい。
 とにかくこんなところで立ち話もなんなので、カイジと共に室内へ入った。


 豪邸というわけではないので、玄関からリビングまでの距離は短いのだが、その間にカイジは何度も転びかけた。子供は良く転ぶものだが、ちびカイジでもこれほど何度も転ばなかったことを思うと、今のカイジは大人の自分の歩幅間隔と子供のそれとの相違が埋められず、バランスを崩しやすいらしい。
 さて、カイジから手渡されたメモを見れば、見たことのある筆跡で『疲れました。後は頼みます』と、まるで子育てに疲れ果てて実家に帰った女房のようなセリフがひと言したためられており、それでは要領を得ないため、そのなじみの黒服のケータイを鳴らしてみれば『電波の届かないところにあるか…』のアナウンス。
 中身は一応大人なんだから、どういうことなのか話せるだろうと、カイジに聞こうとすれば、遠藤が質問を切り出す前に
 「しょうがちゅなんらから、しゃけっ!!あとたばこっ!!」
 と、舌っ足らずなため、すでに酔っ払ってるような口調で成人アイテムを要求…タチが悪い。
 「おまえなぁ…体は子供なんだから、やめとけ」
 「らって、しゅとれしゅたまりまくりで、やってりゃんねぇっ」
 「ああっもう、俺も禁煙中なんだから、これでもしゃぶっとけ」
 と、別に禁煙はしていない遠藤が取り出したのは、ミントの香料が仕込んである禁煙パイプである。もともとちびが来た時のみ禁煙予定で購入したものだが、まさかこんな形で使うことになるとは…
 むぅっ〜と、不機嫌まるだしの顔をしながらも、そのフィルターを口にくわえたカイジが、煙を吸ったわけでもないのに、けほけほとむせた。
 「なんらよ、これ、かりゃい…っ」
 「だから、体は子供でお子さま舌ってことなんだろうなぁ」
 遠藤は笑いながらそういうと、今度はタバコ型のラムネ菓子をカイジに投げた。
 「これくらいが今のお前にゃ丁度いいってことだろうよ」
 「なんえ、えんどうしゃんがこんなもん、もってるんらよ?」
 『えんどうしゃん』と呼ばれていささか胸がキュンとしつつ…
 「ああ、ちょっと親戚のガキがな……ガキってのは、何でも大人の真似したがるもんらしいから、用心にな」
 カイジは「ふーん」と、別に不審に思った様子もないが……あのとんでもない大人のまねごとをしようとしたちびっこいのが、自分の言葉でいなかったことになってしまいそうで、罪悪感に遠藤の心は重くなった。
 カイジはふて腐れたようにそのラムネ菓子を口に咥えると、行儀悪く口元で上下にぶらぶらさせる。
 その態度に、あのちびは可愛かったのになぁ…なぞと、溜息つきつき追憶にふけりそうな自分を抑え、カイジに最初の質問を問うてみる。
 「で、どうした?…元に戻るための研究施設に戻ったんじゃなかったのか?」
 あのとき連れ戻しに来た黒服は、あまりのカイジの豹変振りに絶望的な表情をしてみせたのを思い出し、思わず苦笑すれば、カイジの口元で、バキンとラムネ菓子が割れ、口の外に出ていた部分がパラパラと床に落ちる。
 自分で汚した分は拾えと言いたいところだが、小さい両手を膝の上でギュッと握り締め、体全体をブルブル震わせているところを見ると、どうやら尋常じゃないことがあったのだと思いなおし、遠藤はカイジが口を開くのをただじっと待った。
 やがてカイジがポツリと呟く。
 「……かんだ…」
 「は?」
 「だから…ナニをかんだ」
 カイジは酷く屈辱的なことを思い出したのか、ブルブル震える体をさらに強張らせ、口をへの字に曲げる。
 ああ、おじいたんかおにいたんだな…とあたりはついたし、中身が元に戻ったとはいえこんなちびっこに無体を働くような輩は、そんな目に会うのは当然だとは思うのだが…見た目はこんなでも本来のカイジなら、それはそれは遠慮容赦なく必死で噛み付いただろうということも想像に難くなく……歯ばかりは大人のそれがきれいに生え揃っていたことも思い出し、遠藤はほんのちょっぴりだけ噛み付かれた男が気の毒になった。
 「まぁ、落ち着け…」
 と、なにか飲み物でも出そうと思うが……先ほどから気にはなっていたが、状況が継続し続けている現状に、これは飲み物程度で落ち着けるかどうかと、いささか頭を抱えた。
 わんこの方のカイジが、カイジが部屋に入ってきてからワンワンキャンキャンとうるさいのである。
 ちびとはそれなりに仲も良かったようだから、嬉しさのあまりだったらまだ良かったのだが……これはおもいっきり威嚇と警戒の鳴き声である。動物は敏感ゆえ、中身が以前と変わっていることに気付いたらしい。
 ともかくいらだった精神に騒音は火に油…
 ただ、年末年始のペットホテルは予約が必須。だからといってちびっことカタギに見えない中年男との取り合わせで、ある程度プライバシーが保てるところに入れるとは思えず…ついでにカイジがラブラブちびモードなら、世間様に親子と見てもらえるかもしれないが、泣きっ面ちびカイジと自分の取り合わせでは、ヘタをすると通報されてしまう。
 さて、どうしたものか…
 カイジがグシュっと手近なティッシュで鼻をかんだ。
「えんどうしゃん、ふりょ」
……横暴だなぁ…おい。
 ただ、確かにバスルームには犬の声も届かない。また、お湯に浸かるとなんとなく心が和らぐのが日本人というものだ。
 ちょっとまってろと、おせちの残りとミルクを押し付けつつ、遠藤は風呂の準備を始めた。


 「……なんえあんたもいっしょなんらよ、えんどうしゃん」
 「あんなにしょっちゅうひっくり返られたら、危ねぇだろっ!風呂場でひっくり返って頭を強打して死なれでもしたら面倒くさいっ!」
 「えんぎれもねえこというなっ」
 カイジプンスカ…だが、先ほども転んで、テーブルの角に頭をぶつけそうになったばかりである。死ぬとかどうかは別にしても、大きな怪我でもしたら、変異した肉体であることを思えばやはり帝愛関連の病院に搬送されることになるだろうと思うと、気恥ずかしくとも遠藤と一緒に風呂を済ませたほうがいいのもわかっている…照れ隠しなのか、必要以上に景気良くカイジは服をぽんぽん脱ぎ捨てた。
 ざぶざぶ掛け湯をすると、ダポンと勢い良くバスタブに飛び込む見た目ちびっこ。
 「あぶねえだろ、それ」
 先ほど危ないと注意したばかりなのに、このありさま。なにやら中身もちびっこだったときの方がおりこうさんだ。
 「なんかひろいなぁ…ここんちのふりょ」
 遠藤の注意なんぞ聞いちゃいない上、収容されていた施設の風呂が狭かったのか、青年の時に使ったことのあるバスタブに浸かって、しみじみそんなことをいうカイジである。
 遠藤は一つ小さく溜息をつくと、いつもの自分の手順で軽く体を流し、湯船に浸かった。
 お湯がいつもより余計にあふれる。
 普段と違いスペースが狭くなっているため、いつものように楽々とは行かないが、それでもやっぱり風呂はいいなぁ…と、珍客に少々お疲れ気味の遠藤氏、はぁ〜と大きく息を吐いたが、カイジの方はなにやら落ち着かないらしい。
 「えんどうしゃん、なんら?これ」
 遠藤が片付け損ねた物体を発見して、カイジが小さな手に取ったため、遠藤はしまったと思った。
 「さっきも言ったろだろ?…親戚のガキのモンだよ」
 なんのことはない、腹の部分を押せばキュウと鳴く、大小のアヒルのオモチャである。
 なんとなく小さいカイジが来たときのために購入したものである…使う必要がなくなった時点で処分すれば良かったのだろうが、あのでたらめな薬がどう転ぶかわからないため、別に今処分しなくても良かろうと、とりあえず風呂場の片隅に放置しておいたものだった。
 カイジが戯れに湯にアヒルを浮かべる。
 アヒルの親子がしばらく、大きくゆらゆら揺れたが、そのうち静かに泳ぐようになった。
 あの子はこれでどんな風に遊ぶんだろうなぁ…
 遠藤が与えたものなら、どんなものでもきゃっきゃと喜んだのかもしれない。
 目の前にいるカイジと同じであり別であり…幼いころのカイジそのものだと思えば、消えたわけではなく、本来のカイジの人格を形成する一部に戻ったのだろう。
 そういえば簡単にシャワーを浴びたことがあるくらいで、あの子とは一緒にのんびり風呂に入ってはいなかったなぁ…と思うと、遠藤はなんとなしにカイジの小さい頭を撫でた。
 「えんどうしゃん、しんけんをわかれたおくしゃんにとられたこどもとかいるのか?」
 「なんだ?そりゃ。俺はずっと結婚してないし、隠し子もいねえ…はずだ」
 「……わかんないけど、そんなかおしてる」
 つらつらと脳裏に浮かんでいたことが、しっかり顔に出ていたようである。
 ざぶっとカイジが立ち上がった。
 「なんだぁ?まだ上がるには早いだろうが」
 「せにゃか…ながしてやる……せわになってるし」
 照れくさいのか、最後の方はうつむいて声が小さくなっている。どうやら慰めてくれているつもりらしい。
 あーやれやれ…と思いつつも、せっかくの好意を無駄にするのも悪いので、遠藤も湯船から出ると、カイジに背を向け風呂いすにどっかり座った。
 カイジが小さい手に石鹸を泡立てたナイロンタオルを持って、遠藤の広い背中をゴシゴシこする。ただ、あまり力が入らないのか、なにやらこそばゆいのだが…
 ちょうど鏡に面して座っているため、たまに視線を上げてみれば、ほとんど遠藤の体に隠れてしまって見えないものの、たまにちらりと見える一生懸命な様子が愛らしい。
 あのちっこいカイジも、こんな風に背中を流してくれただろうか?
考えまいとしても、不意に浮かんでしまうのは仕方がない。
 つと小さな手が広い背中から離れ…ああ、お湯でもかけてくれるのかと思いきや…
 ザリッ…
 「……っ」
 無防備な背にいきなり走る痛みに、声にならない悲鳴をあげて振り向けば、カイジの手にあるのは掃除用のたわし。
 世の中にはやっていいことと悪いことがあり…あのちっこいカイジの頃にはわかっていたのだろうが、成長するにしたがって、そういったものを(遠藤に対してのみ)どこかに置き忘れてきたようである。
 遠藤、こめかみに青筋立てて説教モード突入。
 「……カイジ、ちょっとそこへ座りなさい」
 「やらっ!」
 言うなり、カイジが要求した風呂なのに、自分はロクに体も洗わず、バタバタと風呂から出てしまった…
 あ〜あ〜…なんなのかねぇ…
 直接の世話係だったらしいあの黒服ではないが、この間までの好き好き大好きモードだった記憶が新しすぎて、愛娘にいきなり臭いだの汚いだのなんだの言われた父親ってこんな気分なのかねぇ…と、さすがの遠藤も、ちょっと心がグサグサである。
 ハートブレイクおやじは、楽しくもないのにヤケクソででたらめな鼻歌を歌いつつ、いつもより長めに湯船に浸かった。


 さて…風呂から上がってリビングへ顔を出せば、カイジはいない。
 犬の方のカイジが寝室に向かって吠えているところを見ると、そちらへ逃げ込んだのだろう…それにしても外や隣室に対しては一応完全防音になっているはずだが…少々心配になる鳴き声である。
 吠え疲れて寝てくれればいいがなぁ…と思いつつ、冷たくなったコンビニ弁当に少し手をつけ…ついでに重箱も覗いてみれば、中身は順調に減っており…中でも栗きんとんはきれいになくなっていた。
 たくましいのかなんなのか、この騒音の中でもカイジも食うものは食ったらしい。
 ちびと違って添い寝をせがまれることはないだろうが…先ほどのたわしで擦られたところがズキズキして、少しイヤガラセをしたくなった。
 自宅なのをいいことに、ノックもせずに寝室に入れば、カイジは我が物顔でベッドの上である。
 いつもは律儀に部屋着のスウェットからパジャマに着替える遠藤だが、今日は部屋着のまま「おら邪魔だ」といいながら、小さなカイジを壁際に追いやりつつ、ベッドの中に潜り込む。
 「なんらよっ、いっしょにねることないらろっ?」
 案の定カイジ、同衾を拒否。
 「ここは俺んち、で、俺のベッドだ。本来ならお前はソファで寝るべきだと思うんだが、犬がお前を嫌ってるから仕方なくここで寝かせてやるんだ。ありがたく思え!」
 何か物言いたげに、上目遣いで睨んできたが、ぷいっとそっぽ向くと、カイジはできるだけ遠藤から距離を取ってダンゴ虫のように毛布をかぶって丸まってしまった。
 イヤガラセが完了して、フフンと鼻を鳴らす遠藤であるが…露骨に避けられるとちょっと寂しかったりする。
 まぁでも、夜這いの心配だけはする必要はなさそうだと、遠藤は寝るには少し早いが、部屋とサイドテーブルの灯りを消した。


 さて…ちびが訪れる日は、遠藤の元を睡魔が避けて通るらしいのだが…今回もそのようである。
 最初、左手の先に、妙にふにっとした感触があった。
 一瞬、おねぇちゃんの胸の感触かとも思ったが、少しづつ感覚が戻ってくると、やたらちっこい両手が自分の左手を掴み、その柔らかな部分へ引き寄せているのがわかる。
 ああ、これはカイジのほっぺただなぁ…と夢うつつで思っていたが…やがて人差し指が濡れた感触に包まれた。
 口に含まれたのである。
 小さな舌が遠藤の人差し指の先端をヒラヒラと走ったかと思えば、きゅっと強く吸われ…なにやら的確で、無防備な妄想が下半身になぞらえてゆくことに、霞がかかった理性が必死でストップを掛ける。
 カイジに声をかけ、やめさせればいいのだろうが…それもなにやら気まずい。
 だが、口元から指を外され、カイジが自分の首筋から胸元へと遠藤の手を導いてゆくにつれ…これはいかんと鮮明な警報が鳴った。
 「人様の手で何をしているんだ?お前はっ」
 それでもあとあと気まずくなるのも嫌なため、できるだけ冗談めかして言ってみせるが、ひきつっているのが自分でもわかる。
 暗がりで色が見えるわけではないが、カイジの顔に血が上ったのは雰囲気でわかった。
 わあぁ〜っと叫びながら、先ほどより強固に毛布や羽根布団を引き寄せ掴んで、寝具の殻を作る。
 「おい、俺が眠れんだろう…」
 だが、カイジはひしと毛布も布団も握り締めて放そうとしない。
 遠藤は一つ溜息をつくと、カイジにぺッタリくっついて、布団の端っこをかける。当然体の半分は寝具がかぶらず寒い。
 「やだっ…くっつくなっ」
 「先にくっついてきたのはそっちだろうが?」
 くっ…と一瞬ひるんだ隙に、遠藤は布団と毛布を取り上げる。
 外気に晒されたカイジは、「みるなっ」と頭を抱えて突っ伏して、そのうちぐしゅぐしゅ泣き出してしまう。
 「どうしたんだよ、お前…」
 あからさまに様子がおかしい。
 どうしたものかと思いつつ…なんとなしに小さい頭を優しく撫で続けていると、カイジがそろそろと口を開いた。
 「へん…なんらよ…」
 「まぁいきなり子供になったら、変だろうな」
 「ちがっ……れも、ちがわないかも…こんなナリなのに、えんどうしゃんにドキドキする……ふりょばで、はだかみてドキドキして、ホントはせなかにぎゅっとしたくて…さわってほしくて…こどものからだなのにおかしいっ」
 おかしいけれどおかしくはないのだ。大体、精神が成人のまま、姿だけ子供に戻るということなど、起こるはずのないことが起こっているのだから。カイジが遠藤を色恋沙汰の意味で好いているのなら、二人っきりで風呂もベッドも一緒なら欲情してもおかしくはない。
 「なぁカイジ…お前もしずっとこのままだったら…俺の子供になっちまえ」
 おかしいおかしいと泣き続けるカイジに、遠藤はいきなり脈絡のとんだことを言い出した。
 「なっ…」
 「だってお前、ずっとそのナリでいることになったら、幼稚園からやり直しだぞ?精神に体がある程度追いついてくるまでに十数年。それまでにお前をそれなりの年齢で扱ってやれる人間が傍にいなかったら、気ぃ狂っちまう」
 あまりの申し出にびっくりして顔を上げたカイジの小さなくちびるに、遠藤は自分のそれを重ねた。
 触れるだけのキスで、情欲とは程遠いものだったが、もともと幼児趣味のない遠藤には、自分からするにはこれが精いっぱいである。
 「お前は大人なんだから、そういう気分になっちまうのもおかしいことじゃねぇ…ただ、そのナリだと、あいにく俺にはそういう趣味はねぇが…どうしてもっていうなら、手伝いくらいはしてやる」
 カイジの小さなおでこに口づけながらそんなことを言い…愛撫の真似事を試みてみるが…遠藤の心の深い部分が成人の本能として拒むのか、いとおしいと思いながらも、触り方はどこか犬猫を可愛がるようである。
 触れる側がセクシャルな意図でなのか、そうでないのかは、触れられる側の感じ方にも現れるらしく、カイジはさっきまでぐすぐす泣いていたのに、今は時折クスクス声を立てて笑う。
 そしてなにを思ったのか、両手で遠藤の顔を挟み込み、カイジは自分の方からくちびるを押し当てる。
 「くち、でかいよ…」
 まったくごもっともな感想を漏らすと、先ほどのように遠藤の手を取り、頬に押し当て
 「ても、でかい…せなかも…みんな…」
 いとおしそうに遠藤の手に頬摺りしていたが、再び涙が、その柔らかな頬を濡らした。
 「おれ…えんどうしゃんにとって、ずっとこどものままなのか……れも、あのときだけは…たいとうになれたとおもったのに」
 遠藤から見れば、青年カイジも充分ひよっこであるがゆえに、『あのとき』がいつなのか、思い起こすのに少々時間がかかってしまったが…確かに『沼』の時は対等…それどころか手のひらの上で転がされていたのかもしれない。
 「あにょとき、すこしくらいは、みとめてくれたろ?」
 「……ああ、そうだな」
 多分、認めたしまったと同時に恋に堕ちたのだ。
 そのときのカイジは、遠藤に認められるとか認められないとか、そんなことにうつつを抜かしている状態ではなかったと思うが、それでも心の片隅でそんなことを思っていたのかと思うと、いじらしくなる。
 「…えんどうしゃんのこどもなんてやらっ!…おとなにもどりたいっ」
 カイジの切実な願いを叶えてやりたいと思いつつも、こればっかりは…と、せめてカイジを抱き寄せて、背中をぽんぽんと赤子をあやすように撫で続ける遠藤だったが…
 いきなり腕の中の質量が増大して、慌てて手を放したが故、突き飛ばすような形になり…がこんとカイジが壁に頭をぶつけた。
 「いてぇっ!なにすんだよ、遠藤っ」
 「戻ってんぞ?お前」
 「あ、ホントだ」
 鳴いたカラスがもう笑った…とばかりに、いきなり「おやすみ」と背を向けて毛布に潜り込むカイジの肩に遠藤がガシッと手を掛ける。
 「ちょっと待て」
 「え?」
 「え?じゃねぇっ!!あれだけ盛り上がっといて、それはねぇだろうが…まぁそれはおいといても、定着作業はしなけりゃならねぇよなぁ?」
 「なんだよ、それ?」
 カイジはロクに事情を聞かされていないらしいが、どうやらその気になったときに元の姿に戻るらしく、それを定着させるには…つまりご都合主義的に主に夜に行われることの多い愛の交換作業が必要ということらしい。
 遠藤は先ほどとは違う大人のキスをカイジにくれてやると、珍しく優しく目を細めた。
 「心配するな…優しくしてやるから」
 お前の中のちびっこいのを脅かさないように…そしてせめてその子に、大事に思っていたことが伝わるように優しく…

 そして本当に優しくて……素直に言うことはなくても、それは嬉しいのに、カイジの心のどこかがほんの少しだけ寂しがっている気がした。

 

 

 










































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


4月なのに正月ネタですか…
なんか、後半もっといろいろ書きたいことがあったはずなのに、本気で細部を忘れた上、なんか前にできなかった「ちみっこと風呂イベント」を中身だけ元カイジで強引に入れたらわけわかんなくなりました…

今一番欲しいものは描写力です…最近ちゃんと本読んでないなぁ…