ちびちび 3 「おにいたんのばかっ!!うそちゅきっ!!」 ちびっこいのが、もともとつり目の眦をさらに吊り上げて駆けてきたかと思いきや、いきなり俺様のスネにキック。 大して痛くはないが、今まで俺に対しては比較的素直だったから、けっこうな不意打ちで、さすがに少しよろけた。 あの遠藤とかゆーおっさんのところから、お薬開発部のアイドルのご帰還だが… 帰って来て人のツラ見るなり、ご挨拶だなぁ、おい。 「おとこのひとはちてやるとよろこぶってゆってたのにっ……えんどうしゃん…おこっちゃったんらも……」 えぐえぐと泣きじゃくるちびっこいカイジを、黒服がよしよしと抱き上げて連れて行ってしまった。 『ちてやるとよろこぶ』ことの内容を察したのか、通り過ぎしな黒眼鏡の下で、いささか非難がましい視線が送られたようだが、その程度で親父のごとく『制裁』なんぞ加えていたら、優秀な人材など、残らなくなってしまう…まぁ俺基準でポイント1マイナス。マイナス10ポイントで、適度な制裁だな。 大体、今の見た目と性格がどうあれ、あれは実際には俺より年上の、ハタチを2〜3年前に通り過ぎた社会人のはずだ。 ちびっこくなった本人が協力しなかったために、他の被験者より長期に渡って面倒見るハメになっているのだ。維持費を考えれば労働に多少の負荷を加えたところでなにが悪い。 とりあえず、おいたをしたときは直後に体に覚えさせた方が望ましいが、あのちびっこの言い分によれば、こちらにも多少の落ち度はあるらしい……今日はこれ以上接触すると噛みつかれそうだし、勘弁してやろう。 あのオヤジのところから帰ってきた後だと、いたぶるより観察した方が、おもしろいもんも見れそうだしな。 くくくっ…と、つい笑いが漏れてしまったところを、通り過ぎしなの黒服に見られ……その視線がなにやら薄気味悪そうだった。 個人がなにを思おうが自由だが、なんとなく俺が不快だったので、その黒服には俺基準マイナス2ポイントをつけた。ちなみにこの表情がわかりやすい黒服は、あと1ポイントで楽しい制裁が待っているが、彼はそのことに一切気付いていない。最後の1ポイントの時、きっと「何でそんなことで?」と思うのは間違いない……恐怖におののき、顔をゆがめまくる黒服を想像するとつい笑えてしまう。 ククク笑いを止められないまま、小動物の珍妙な行動を観察するため、俺はモニター室へ向った。 おにいたんのばかっ…それよりえんどうしゃんのばかっ… 座高がちびカイジの身長とほとんど同じという、巨大くまのぬいぐるみをベッドに持ち込んで、ちびカイジ、不貞寝である。 ぶかぶかの白いシャツのようなものがパジャマ代わりで、最近はある事情により、寝るときに下着を着けていない… 遠藤と一緒に、わんわんたんと散歩したり遊んだり、遠藤の膝の上で絵本を読んでもらったり、ご飯を一緒に作ったり(ちびカイジのお手伝いは半分邪魔だが)…一緒に過ごした時間は楽しかった…が、夜拒まれたことはショックであったらしい。 それでも楽しい時間で忘れていたことなのに、最初にとんでもないことを吹き込んだ『おにいたん』の顔をみるなり、マグマのように嫌な記憶が噴出して、幼い胸は憤怒と悲しみで満ち満ちている。 「らって、ぼく…ちってるんらも……」 人前ではくましゃんと呼び、誰も居ないところではえんどうしゃんとこっそり呼んでいる巨大クマの腹に顔をうずめ、ちびカイジは呟く。 「…らって……えんどうしゃん…おっきいぼくとたくさんちてたも…」 ぐすぐすと泣きの発作がおさまらず、クマのえんどうしゃんのふかふかした腹に、きつく顔を押し当てた。 子育てに疲れた黒服に『お父さんみたいなものだから、ちょっと一日泊めてもらえ』と言われて初めて遠藤のマンションにご厄介になった数日後のことである… 小さなカイジは夢を見た。 最初はどうして遠藤が裸なのか、よくわからなかった。 ただ、小さいはずの自分の手足が長く大きくて、そのうち、よくわからないがおっきくなった自分が、遠藤とプロレスごっこをしてるのだと思った。 最初のうちはなにやらあいまいだった夢が、日を追うごとに鮮明に、具体的になり… 夢の自分が嫌がっているのに、遠藤は嫌がることをやめないので、いじめられているのだと思った。 一度しか会ったことはないけれど、初めて会ったときから好きで好きでたまらない遠藤に、いじめられる夢を見るのは恐くてたまらない。 だけど、いじめているにしては遠藤は、カイジにたくさんちゅーをして、優しそうな、寂しそうな声で何度もカイジの名を呼ぶので、幼いなりにちびカイジも、ああこの人は自分のことが好きなんだなぁ…と思うようになり… 兵藤親子が、自分たちの『かめしゃん』と遊ぶようにちびカイジに迫ってきたのもこの頃なので、夢の中で行われている行為の意味は知らなくとも、少なくとも口でかめしゃんを可愛がることについては、『された方は気持ちがいいからだ』と合点がいったのである。 気持ちがいいことなら、大好きな人にしてあげたい。 「えんどうしゃん…」 ちびカイジはごそごそと体をずらし、くましゃんの短い足を自分の足の間に挟み、幼い器官を押し付ける。 「ちゅき…だいちゅき…」 実際に遠藤にしたように、くましゃんのふかふかの頬やらぴかぴかの鼻の頭やらに何度も何度も幼いキスを繰り返した。 未熟で達することを知らないそれは、刺激すればそれなりに気持ちいいのだが、自分がかつて知っていたものとは少し違う気がする。 だがそれも、遠藤が教えてくれると思ったのに、答えは得られなかった。 「…ゆめみたいにおっきくなったのに……なんえ……なん…」 ちびカイジの場合、小さい子供にありがちな、夢と現実を混同しているということではなく、夢は体が覚えている現実の記憶である。 それゆえなのか、夢と似たようなシチュエーションになっても、同じような展開にならないことに、なにやら非常に理不尽を感じているらしい。 やがて泣きつかれたカイジは、クマのえんどうしゃんをぎゅうぎゅうに抱きしめて、そのまま眠ってしまった。 遠藤のことを思い、そんなことをした夜は、眠っている間だけ、カイジは体だけ元の青年カイジに戻ったり、無意識的に行為の続きをしたりして、お兄ちゃんを視覚的に楽しませているわけだが、本人はまったく知る由もなく、朝になって、衣服とくましゃんが汚れていて、泣きながらくましゃんを必死でこするハメになる… 「…れね、おっきくなったらちていいっていったのに、おっきくなったのに、えんどうしゃん、ちてくえなかったお…」 黒服のおじちゃんとお勉強をしたあとの、お遊びの時間…いつもはテレビを見たり、本を読んだりしているが、たまに来客のある時間でもある。今日はお兄ちゃんがやってきた。 服装とサングラスの趣味の悪い茶髪のお兄ちゃんに、昨日と同じく、ばかばかと暴言を吐き、ちっこいこぶしでぽかぽかと背中を叩いた後、えぐえぐ泣き…気が晴れたようなところを見計らって、お兄ちゃんこと兵藤和也がケーキとミルクを持ってくれば、むくれつつも気を緩めて、いきなり恋愛相談… おもいっきり相談相手を間違えているとしか言いようがないが、他の教育係を兼ねている黒服も、カイジの実年齢はともかく、現在の幼さを考慮して、そういった話はタブーの雰囲気を作っているため、カイジに嘘を教えた本人と知りつつも、悩みの打ち明け場所はそこにしかなかったのである。 和也、今は飴と鞭の飴の時と、うさんくさいひきつり笑顔でそれを聞いていたが、穢れた大人の視点ではその悩みも『自分は大事にされている』というノロケにしか聞こえない。 「おにいちゃんは理由を知ってるけど、またウソツキって言われるとキズついちゃうしなぁ…」 ちびカイジの暴言と暴力に傷ついたような顔で勿体つけると、ちびカイジ、潤んだ瞳で上目遣いに「おにいたん、ごめんなしゃい…」と素直に謝って見せる。 楽だし可愛いし、なんかいいわ…と、なにやら癒される和也坊ちゃんだが、この男、鬼畜である。 「えんどうしゃんとかいう人が相手にしてくれない理由はなぁ…カイジたんの練習が足りないからだな。だからしっかりお兄ちゃんのかめしゃんで練習しないと」 彼に似合わぬ爽やかな笑顔で、言ってることと態度はえげつない。ちびカイジの返事を待たずに、ベルトをカチャカチャいわせて、かめしゃんの出動準備である。 「…?らって、しゅきなひとと、おっきくなったらやることらって…」 遠藤からは否定されたことと、まるっきり逆のことを言われて、カイジは思いっきり面食らった。 おにいたんはうそちゅきなんだと、頭の中でおさらいするが、あんまり目の前で堂々とされると、和也の言ってることも本当なんじゃないかという考えに侵されそうになる。 「あー、たぶん、えんどうしゃんの言ってることも本当なんだけどな…えんどうしゃんはカイジたんがいきなりおっきくなったりするなんて、思ってなかったんだ。で、普通の人は大人になるまでに長い時間をかけて練習して、最後は好きな人とするんだけどな、カイジたんは小さいところから、いきなりおっきくなって、しようしようって迫るから、あんまり練習してないのに、いきなり本番で、おっかなくなったんだよ。大人のかめしゃんは痛がりさんだから、噛まれたら大変だしな」 てきとーに口から出まかせで、和也自身、自分で言ってることが良くわからなくなってきたが、なにやらちびカイジには効いたらしい。 遠藤の言いつけに背くようなことをするのが嫌なのか、今にもまた、泣き出しそうな顔をしているが、和也がケーキの生クリームを指で掬い、いつものおこちゃま仕様にデコレートしようとすれば、「えんどうしゃんとしゅるれんちゅうだから、ぬらないの。がまんしゅるの」と、止めてくる。 健気なんだが、やっぱりばかだよなぁ……と、和也はニヤニヤ。 「今度はカイジたんが、くましゃん相手で一人でしてることも、お兄ちゃんがちゃんとしたやり方、教えてやるからな」 ちびカイジを見下ろして、ちびっこ相手にさも親切そうにそんなことを言うあたり、外道である。 小さくなっても不憫な子、カイジに幸せの訪れは遠い…… ぼやき。 なにやら坊ちゃんが普通にどうしようもない変態になっております…きっと掃除からの無意識的逃避で出来た話のせいでしょうか…ゴミ溜めの部屋も自己嫌悪ですが、これも自己嫌悪です。 ちびネタはほのぼのを目指してるはずなのに、なんかここでも理不尽な扱いを受けてしまうカイジたん…ぼったんと絡めたのが敗因ですかね?おっかしいなぁ…坊ちゃん、『おにいたん』て呼ばれるのに、ちょっとときめいちゃってるとかゆー設定にしてたはずなのになぁ… |