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坊ちゃんGO!GO!GO!
金もヒマも有り余ってると、人間、ロクなことを考えないもので…
まぁ幼い頃から通常の勉学のほかに、ギャンブル関連をこのころからイカサマのやり方まで込で猛特訓させられて、またなぜか戦後の株取引の動向やらを空で言えるほど暗記させられ、またその間、まっとうな対人関係とやらを学ぶ機会を失った兵藤家の御曹司の環境には、ほんの少しばかり同情の余地はありそうだが、彼の現在の行動を見るとその淡すぎる同情心にも羽根が生えて飛んで行ってしまうわけで… 帝愛の技術の粋を集め、まだうら若い和也坊ちゃんは自分の体のスペアではなく、純粋に娯楽のためにクローン人間を作らせた。そのクローンの素体が誰であるかは言わずとも…であるが、なにぶん魂の入らぬ肉人形。切り刻んでみたところで、痛い苦しいも動物的な反応しかしないので、一通りのことをしたら飽きてしまった。 本人を連れてきて存分に遊び倒したいところであるが、現在絡め取るための仕掛けの真っ最中。ご本尊の登場はもうしばらく先の模様… あ、でもクローンが出来るなら、受精卵とか作れたりしねぇ? 自分とカイジの形質を兼ね備えた子供を押し付けたら、カイジはどんな顔をするだろうと、和也坊ちゃんはカ行で笑い…黒服たちは内心いや〜な気分になったが、顔に出したら死刑なので一様に無表情である。
はてさて… 坊ちゃんの思いつきは、なにやら非常に難航した。人間の遺伝子が数パーセント混ざってるひつじが作れるくらいだから、人間のでもなんとかなるだろうというのは、どうやら間違いだったようである(当たり前だ)。 ただ…本当にごくごくなんとなくの思いつきやらせてみた、帝愛に比べればささやかな悪徳金融業の社長の細胞とカイジの細胞を掛け合わせは、それはそれは嫌になるほどポコポコできてしまったので、和也坊ちゃん面白くない…(「あのオヤジの細胞でもダメ」ってところに、なにやら慰めを求めていたようである) 「原因はなんだろなぁ〜?」 不機嫌丸出しのこの問いに、不興を買うとわかっていても、誰かが答えなければ、いずれ全体責任の血の雨が降る。 「それはもう、相性というしか…なにやら潜在的に遺伝子が引き合うようで…」 報告した黒服の頭に、スパコーンと坊ちゃんの靴が飛んだ。 靴程度で済んだのはある意味奇跡である…通常ならナイフやら日本刀やら散弾銃…一応、遺伝学の権威とほぼ同レベルの頭脳を失うのはヤバイという、ギリギリの理性が働いたらしい。 「わかった。もうそれはいい…代わりにタイムマシンを作れ」 「はぁ?」 「同じことを2度も言わせるな!カイジさんがあのオヤジに会う前に会ってやるっ!!」 世紀の発明がこんなくだらない理由で生まれたのでは、たまったものではないが……
おかあさん、帝愛ってすごいね!(←目をキラキラさせたおこちゃまのイメージ映像)
「あのなぁ…これで本当に時代を飛び越えられるのか?」 スポンサー坊ちゃんはしこたま面食らった。 「タイムマシンといったらこれです。大丈夫、テスト上は和也様がお望みの年月程度でしたら、無事行き来できました」 なにやら畳2畳分の平らな板に一本、車のハンドルのようなものが突き出しており、その下部には一応さかのぼった年代でも表示されるのであろう、デジタルの文字盤が付いてはいるが、それはどう見ても目覚ましのデジタル時計にしか見えず、サイドには申し訳程度に、用途不明のレバーが2本突き出ているが…早い話、どこぞのネコ型ロボットが乗ってきた机のひきだしに装備されているものを、それはそれはとびきり景気よく劣化したような、お粗末極まりないシロモノである… これが本当に時空を超えたら、はっきり言って恐い……どこをどう贔屓目に見ても片道切符である。 「まぁここまで来たらGOですよ、和也様」 「ちょ…待て、おいっ!!」 ほとんど日頃の恨みなのかヤケクソなのか、黒服団体は御曹司を取り囲むようにしてみんなでその狭くて強度も怪しげなタイムマシンに乗ってしまい(座る場所がないため、操縦者以外立ったままである)……あろうことか、本当になにやら空間が歪み…… 幼少のみぎりより、身代金目当ての誘拐犯を自力で八つ裂きにしてきた和也坊ちゃんに、今まで恐いものなど何一つなかったが、このとき生まれて初めて、恐怖というものを味わった。
さて…場所はなにやらコンビニの裏手である。 「おい、ホントにコレ、時間さかのぼったんだろうな!?」 自分の住まいから、確かに場所は離れたとはいえ、別段、風景やらなにやらに変わったところはなく…まぁ劇的に時間をさかのぼるわけではないので、少々気候が生温かい程度の変化しか感じられないのは、当たり前といえば当たり前なのだが…… 「ええ、間違いなく。遠藤氏が深紅のバラの花束を持ってくる前日です」 「なに〜ぃ?それじゃあもう、エスポワールのアレで会っちゃってるだろ!?意味ねぇだろ!?あ゛あ゛っ!?」 そうゴネながら黒服をどつく…なにやら育ちが怪しげな坊ちゃんである。 どつかれた黒服は、なにやら勢いで歯を飛ばしてしまい、血まみれの口を押さえながら必死で抜けた歯を探している(別にくっつくわけではないが、自分の体がいきなり欠損すると人間、パニックになるらしい)ため、別の黒服が言葉のあとを継いだ。 「遠藤氏との接触がなければ、伊藤カイジという男、とりあえず冷静でありさえすれば、ごくごく普通に弁護士を立てるある程度の賢明さと、法定金利内でしたら、うだうだぶつぶつ言いながらも『判を押した自分が悪い』と、それなりに返済しようとするある意味状況に流されやすいところもありますゆえ、流れを変えたいと焦っているこのコンビニバイト時代が、ある意味一番のチャンスなのです」 「GOですっ和也様!」 「行くべきですっ和也様!!」 部下に背中を押されるのは、はっきり言ってうざい……ただ、なにやら回りに人が集まり始め、これ以上ビチビチ拍手などされても困るので、和也坊ちゃん、非常に不本意ながらコンビニへ……黒服、数の勝利である。 ただ不本意で店に足を踏み入れたとはいえ、それでも惚れた弱み… 基本的にカイジの着ているものと言えば、ダウンジャケットのイメージが色濃く染み付きすぎているので、コンビニの制服はなにやら新鮮であった。 「いらっしゃいませ…」 うそ、笑ってる!? 接客上、非常にしぶしぶ仕方なく…ぎこちなく微笑むというより、口元をひきつらせているのいうのが正しく、ついでに視線も微妙に反らされているのだが…それでも一度たりとも和也に微笑みかけたことなどない(仕打ちを思えば当たり前だ。ちなみに17歩時の愛想の半端な愛想の良さは、なにやらカウントされていない)カイジが、自分にむけて微笑みかけているという事実に、和也はクラリとした。 これまでの人生、感情の前に劣情がさくさく満たされたので、こういう局面では意外と純情……かもしれない。 ただ、それもつかの間の幸せ…… 和也の後ろで再びガーッと自動ドアが開くと、和也の背後に立つ人物に、カイジは思いっきり素に戻り、青褪めつつポッとなるという、なにやら非常に器用な表情をした。 「生還おめでとう!カイジ」 渋い男の声……遠藤である。 「な…っ……なんだよっ!なんで職場までくんだよっ!!」 「いや、なんかすごく禍々しい気が……」 「禍々しいって……あんたが疫病神なんだろっ!!」 カイジくん、ちょっと…と、カイジがコンビニ店長に連れ出されたところで、思わずあっけに取られた和也坊ちゃんも、ドリフの大道具の如く、黒服たちによって連れ出された。 「な、な……」 「な?」 「なんなんだよっ!!今日はあのオヤジがでしゃばる前日だろっ!?いや、まかり間違って当日だったところで、あのおっさんが出てくるの、カイジさんが金髪と一緒の帰路の住宅地だろっ!?なんでこんなトコに出張って来るんだよっ!!」 なんでそんなことまで知っているのかといわんばかりに詳細な報告書を、なにやら丸暗記していたらしい坊ちゃん、非常におかんむりである。 実際、予定外であるのか、特にタイムマシンの製作担当の黒服は表情を曇らせた。 「超人的な愛のパ……いえ、どうやら我々のような異物が入り込んだことで、歴史が少し違う方向へ動いてしまったようです」 「今でしたら大勢に影響は…それほどないと思われます。一旦引き返しましょう」 「そうしましょう」 「そうしましょう」 先ほどのように数で押し切り、この場を乗り切ろうとする黒服たちだったが、今度はそうは問屋が卸さなかったらしい…酷薄な唇から押し殺した声が漏れる。 「……わかった…もっと時間を遡れ」 「はぁっ?」 「こうなったらカイジさんの幼年期から、俺様の存在を刷り込んでやるっ!!だから、とっとと20年くらい前まで遡れっ!!」 ああ、そんなムチャな……とか、そういう反応をされるかと思いきや……今度は黒服全員、葬式のように押し黙り、和也のためのスペースを確保しつつ全員でまた、すし詰めになりながら、タイムマシンに乗り込んだ。
うにょうにょと空間は歪み、色とりどりの光と闇が交錯する中、時を順調に遡っているボロタイムマシン……のはずだったが…… 「あっ」 操縦者が小さく悲鳴をあげた。 人ごみの隙間からほんの少しだけ見えたデジタル時計は、20年前を越えてさらに遡っており、操縦するタイムマシン製作者黒服が青い顔をして必死でコントロールを試みている様子だが、時は戻るばかり……だがやっと、歪んだ空間はそのままに、カウンターが止まった。 「ど…どうしたんだよっ」 生まれながらにしてすべてを手にする者であるはずの自分が、こんなところで消えてしまうはずはない……そう信じきっている和也であるが、さすがにこの状況で不安は隠せない。 「故障ですっ…完璧にっ!とりあえずこの時代に降りるなら、戦後の動乱期から少しばかり落ち着いた時代のようで…」 その解説がすべて終わる前に、和也は誰かに背を押され、あれよあれよという間に、怪しげな空間に押し出された。 「待て、助けろっ、おいっ」 その声も虚しく、みるみる和也の姿は空間の中へ溶けていった。 「……さすがに後味悪いよなぁ…」 古い紙幣を数枚、和也の消えた空間にハラリと落として、一人の黒服がぼやく。 「まぁ、我々の直接雇っているのは和尊様だ。雇用主の要求のためにはもっと酷いことにさえ手を染めているんだから、仕方があるまい」 「えげつないことをしてきたんだから、ある意味因果応報だろうなぁ…」 「それにしても、タイムマシンが出来たら、息子をある時代に捨てて来いだなんて、金持ちのすることはわからんなぁ…」 「問題児だからだろう?…まぁ、我々も一応お引止めはしたんだから、そう気に病むこともない。帰るぞ」 故障したはずのタイムマシンは、和也を除いた全員を、元の時代に運んでいった。
「いてぇ…っ」 和也が落ちたそこは、明るい夜に馴れきった現代人には深すぎる闇……目を凝らせば、小屋としか思えない建物が立ち並んでいる。どうやらとんでもない時代に落とされたらしい。 「あいつら、絶対、わざとだろうっ」 条件反射的に虐殺系報復を考えているところへ、聖徳太子柄の百円札がハラリと2枚、和也の足元に落ちてきた。せめてもの餞別らしい。 「……まぁ、いずれ迎えはくるんだろうが……でも今この瞬間にジジイがくたばってたら、相続人が一人減ったってことで、放置されるかもなぁ…」 もっとパニックを起こしてもおかしくないところであるが、和也坊ちゃん、意外と冷静……このあたりが他のボンボン連中と一線を画すところらしい。 とりあえず、これを増やさにゃあなぁ……と、和也はとぼとぼ夜の街に消えた。
普通に歩いていたところで街のチンピラになにやら絡まれ、やりあって圧勝したところを、のちに昭和の怪物と称される男の部下に声をかけられ連れられて、三透牌で麻雀を打って金を増やし、ついでに『金で相手を破滅させるもの飽きちゃった』という老人に「相手に血でも賭けさせたらいいんじゃね?」といらんアドバイスをし…… 脱色していた髪がプリン頭になり、黒髪部分で長さをそろえられるようになったころ、兵藤家の使いの者と名乗る黒服に声をかけられた。 「失礼ながら貴方は兵藤和尊様ではありませんか?」 話を聞けば、どうやらこの頃から名士だったらしい兵藤家で、たった一人の跡継ぎが急病で亡くなり、妾腹のもう一人の息子も母親が亡くなって以来行方知れず…その妾腹の息子が和也の父、和尊であるらしい。 親爺にそんな過去があったとはなぁ…と思いつつも、和也はその状況を利用しようと考えた。認めたくはないが、自分と父とは世間的な感覚ではかなり似ているのである。入れ替わってしまったところでほとんど気づかれまい……また認めさせてしまえば相手にも体面はあるのだから、後で名乗り出てきた方がニセモノということになる とりあえず、後ろ盾はないよりもあったほうが断然いい。 タイムパラドクスとかSFごとのお約束は一切無視で、和也は父の名を名乗ることとなった。
その後の彼の人生である。
財閥系で家柄的にはまったく問題はないが、先天的に欠陥があり子供が産めない体の娘と、財産目当てで政略結婚。適度に愛人を作りながらも、子宝には恵まれずに数十年経った頃、一人の女と出会った。 調べれば婚約者もいるという…そんな彼女の周りの人間を根絶やしにして、和也は彼女を囲い込む。 不幸にするとわかっていても、そうしなければならなかったのだ。自分が自分として存在するために…そして『彼』と再び会うために… 懐かしさといとおしさ、それに原始的な罪悪感が混在し…だが自分の下で喘ぐ彼女はやはり『女』であることに失望し…一度の情交で、彼女は受胎。珠のような男の子を産んだが、その3年後に体の弱かった彼女は、風邪をこじらせて死んでしまった。 産まれた男の子は『和也』と名づけられ、将来財を成すために、生涯で一番吸収力のあると言われる幼年期より、ギャンブルの英才教育と戦後の株取引の動向やらを空で言えるほど暗記させ…それ以外はとりあえず好きにさせた。悪事のごまかし方は、おいおい自分で憶えるだろう。おそらく『和也』にとって、それは呼吸をするように自然なことのはずだ。 ……そう…自分の母と交わるという、人としての原始的なタブーを体験をした彼にとって、多少の刺激は『彼』と会うまでのほんの暇つぶしである。 最近は鏡を見ることも滅多になくなったが、シミ皺だらけの顔…枯れ木のように老いた手……凛々しさ、精悍さはなくなったが、老いぼれには老いぼれなりの、えげつない楽しみ方というものもちゃんとある。 暇つぶしの一つ、ギャンブルクルーズの視察……VIPルームでその乗船者名簿に目を通し、一人の名前を見つけて、老人は目を細めた。 「長かった……」 「は?」 老人の呟きを耳に留め、忠実な黒服の一人が小さく聞き返すが、なんでもないと和尊こと和也は首を振る。 だが、ほんの少しだけ微笑んでいたその横顔は、いつもの狂気におぼれる彼のものとは違い、黒服は少しだけ不思議に思ったが、すぐに業務用の思考に切り替えた。
長い余生だったと、和也は思う。 カイジに再び会うまでの日々は、どんなに必死で財を成そうが、贅沢を極めようが、お迎えを待つ老人と同じようなものだった。だが、これからは違う…
俺があんたを思ってきた年月を圧縮して、あんたを苛め抜いてやるよ
老人は下層に蠢く落伍者の群れに、この日最後の乗船者を見つけ、熱いまなざしで見つめた。
ぼやき
別タイトル『黒服、決死の慰安旅行』…どこが慰安かって、そりゃあの坊ちゃんをいじり倒すあたり?(でも命がけ)。 もう、ほとんどしょっぱなからオチがバレバレ(適当にやってたら年齢にムリが出た事に後で気づいたが気にしない…)。 ただ、昭和の怪物と三透牌麻雀打って神域の男以前に勝った、ただ一人の若者だったりするといいなぁと。あの欲望への正直さはある意味穢れない(嘘です)。うなるような札束は見慣れてるから、案外普通にいい勝負しそう…(でも自分の血には弱そうだよなぁ)
カイジと遠藤さんとの間に子供(正しくは受精卵?)はポコポコできるのに、自分のはぜんぜん出来てくれない和也さん、なにやら不憫です……片思いがきわまって、方向がなにやら変な方向にはじけて、人格が崩壊しとります。で、あたしひとりが楽しいです。 それにしても10代前半のようだ、この坊ちゃん…
なんかね、お笑いで書いても、シリアスぶっても『坊ちゃんの片思い』の位置づけで固まっちゃいまして…ダディとの3Pにしても、カイジ奥さんたら、遠藤さんのトコに帰りたがるんで(自分で書いててすんげー末期だ…おい)、本格坊カイはムリらしいと判断。 まぁうなるほど金持ってて凛々しくて女にモテモテ、ジジイが目の上のたんこぶだけど、とりあえずこの世は俺のためにある!みたいな和也さんには、一個ぐらい絶対手に入らないもんがあったほうが色気出るって!…と、勝手にほざいとります。片思いでモヤモヤしてる坊ちゃん萌です。はい。 |